エントロピー最大化モデル(エントロピーさいだいかモデル、英語: Entropy Maximising Models)は、アラン・G・ウィルソンにより導出された空間的相互作用モデルである。このモデルではエントロピーの概念が使用されており、モデル式は統計力学的な方法で、パーソントリップを分子運動のように捉えて導かれた。また、このモデルが重力モデルの理論的な根拠を説明したことで、重力モデルの問題点の一部が解消された。
モデル式
発生―吸収制約モデル、発生制約モデル、吸収制約モデルの場合について、モデル式は以下のように表される。
- 発生―吸収制約モデルの場合
ただし
- 発生制約モデルの場合
ただし
- 吸収制約モデルの場合
ただし
導出
発生―吸収制約モデルの場合の導出を以下に示す。
発地を個、着地を個、流動数の総和を、地域から地域への流動をとする。このときの流動パターンを考え、流動量が最多となる場合の発着地の組合せを把握したい。このときの制約条件は以下の通りである(ただしは総移動費用)。
ここではをに分配する、場合の数の最大値の決定を行えばよい。このとき、
が成立する。ここで、最大値の導出のために、式(7)の両辺を自然対数変換すると以下の式が得られる。
ここで、スターリング近似により、が十分に大きいときが成り立つため
が導かれる。よって、の最大化を目標としていく。その際、ラグランジュの未定乗数法を用いる。は式(4)、は式(5)、は式(6)のラグランジュ乗数とするとき、ラグランジュ関数は
となる。ここで、の最大値を与えるは、偏微分方程式を解くことで求められる。よって、以下の式が成り立つ。
式変形すると、以下の式が得られる。
さらに式変形すると、以下の式が得られる。
が得られる。このとき、
とおくと、式(13)は
と表示でき、発生―吸収制約モデルのときのエントロピー最大化空間的相互作用モデルが導かれた。
この他、発生制約モデルの場合は式(4)・式(6)を、吸収制約モデルの場合は式(5)・式(6)を、無制約モデルの場合は式(6)を制約条件として使用することで導出できる。
脚注
注釈
出典
参考文献
- 石川義孝『空間的相互作用モデル―その系譜と体系―』地人書房、1988年。ISBN 4-88501-061-6。
- 高阪宏行「空間的相互作用モデルとその展開」『人文地理学研究』第3巻、1979年、1-11頁。
- 杉浦芳夫 著「空間的相互作用モデルの近年の展開」、野上道男、杉浦芳夫 編『パソコンによる数理地理学演習』古今書院、1986年、138-185頁。ISBN 4-7722-1366-X。
- 張長平「空間的相互作用による地域間の人口移動分析―在日中国人を事例として―」『国際地域学研究』第14巻、2011年、1-13頁。
- 村山祐司 著「地域間の流動をみいだす」、村山祐司・駒木伸比古 編『新版 地域分析』古今書院、2013年、159-170頁。ISBN 978-4-7722-5272-0。