エントロピー最大化モデル(エントロピーさいだいかモデル、英語: Entropy Maximising Models)は、アラン・G・ウィルソンにより導出された空間的相互作用モデルである。このモデルではエントロピーの概念が使用されており、モデル式は統計力学的な方法で、パーソントリップを分子運動のように捉えて導かれた。また、このモデルが重力モデルの理論的な根拠を説明したことで、重力モデルの問題点の一部が解消された。

モデル式

発生―吸収制約モデル、発生制約モデル、吸収制約モデルの場合について、モデル式は以下のように表される。

発生―吸収制約モデルの場合

ただし A i = 1 j = 1 n B j D j exp ( β d i j ) {\displaystyle A_{i}={\frac {1}{\sum _{j=1}^{n}B_{j}D_{j}\exp(-\beta d_{ij})}}} B j = 1 i = 1 m A i O i exp ( β d i j ) {\displaystyle B_{j}={\frac {1}{\sum _{i=1}^{m}A_{i}O_{i}\exp(-\beta d_{ij})}}}

発生制約モデルの場合

ただし A i = 1 j = 1 n W j γ exp ( β d i j ) {\displaystyle A_{i}={\frac {1}{\sum _{j=1}^{n}{W_{j}}^{\gamma }\exp(-\beta d_{ij})}}}

吸収制約モデルの場合

ただし B j = 1 i = 1 m V i α exp ( β d i j ) {\displaystyle B_{j}={\frac {1}{\sum _{i=1}^{m}{V_{i}}^{\alpha }\exp(-\beta d_{ij})}}}

導出

発生―吸収制約モデルの場合の導出を以下に示す。

発地を m {\displaystyle m} 個、着地を n {\displaystyle n} 個、流動数の総和を T {\displaystyle T} 、地域 i {\displaystyle i} から地域 j {\displaystyle j} への流動を T i j {\displaystyle T_{ij}} とする。このときの流動パターンを考え、流動量が最多となる場合の発着地の組合せを把握したい。このときの制約条件は以下の通りである(ただし C {\displaystyle C} は総移動費用)。

ここでは T {\displaystyle T} T i j {\displaystyle T_{ij}} に分配する、場合の数 W ( T i j ) {\displaystyle W(T_{ij})} の最大値の決定を行えばよい。このとき、

が成立する。ここで、最大値の導出のために、式(7)の両辺を自然対数変換すると以下の式が得られる。

ここで、スターリング近似により、 T {\displaystyle T} が十分に大きいとき ln T i j ! T i j ln T i j T i j {\displaystyle \ln T_{ij}!\approx T_{ij}\ln T_{ij}-T_{ij}} が成り立つため

が導かれる。よって、 ln W ( T i j ) {\displaystyle \ln W(T_{ij})} の最大化を目標としていく。その際、ラグランジュの未定乗数法を用いる。 λ i {\displaystyle \lambda _{i}} は式(4)、 γ j {\displaystyle \gamma _{j}} は式(5)、 β {\displaystyle \beta } は式(6)のラグランジュ乗数とするとき、ラグランジュ関数 L {\displaystyle L}

となる。ここで、 L {\displaystyle L} の最大値を与える T i j {\displaystyle T_{ij}} は、偏微分方程式 L T i j = 0 {\displaystyle {\frac {\partial L}{\partial T_{ij}}}=0} を解くことで求められる。よって、以下の式が成り立つ。

式変形すると、以下の式が得られる。

さらに式変形すると、以下の式が得られる。

が得られる。このとき、

とおくと、式(13)は

と表示でき、発生―吸収制約モデルのときのエントロピー最大化空間的相互作用モデルが導かれた。

この他、発生制約モデルの場合は式(4)・式(6)を、吸収制約モデルの場合は式(5)・式(6)を、無制約モデルの場合は式(6)を制約条件として使用することで導出できる。

脚注

注釈

出典

参考文献

  • 石川義孝『空間的相互作用モデル―その系譜と体系―』地人書房、1988年。ISBN 4-88501-061-6。 
  • 高阪宏行「空間的相互作用モデルとその展開」『人文地理学研究』第3巻、1979年、1-11頁。 
  • 杉浦芳夫 著「空間的相互作用モデルの近年の展開」、野上道男、杉浦芳夫 編『パソコンによる数理地理学演習』古今書院、1986年、138-185頁。ISBN 4-7722-1366-X。 
  • 張長平「空間的相互作用による地域間の人口移動分析―在日中国人を事例として―」『国際地域学研究』第14巻、2011年、1-13頁。 
  • 村山祐司 著「地域間の流動をみいだす」、村山祐司・駒木伸比古 編『新版 地域分析』古今書院、2013年、159-170頁。ISBN 978-4-7722-5272-0。 

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