尤度方程式(ゆうどほうていしき、英: likelihood equation)とは、統計学において、対数尤度関数の極値条件を与える方程式の事。統計的推定法の一つである最尤法において、尤度関数を最大化する最尤推定値を求める際に用いられる。
概要
独立同分布を満たす 個の確率変数 とその観測値 を定義する。すなわち真の分布から 個の観測値(データ)が無作為抽出された状況を考える。
ここで確率密度関数 に従う確率モデルを導入する。ここで は分布パラメータ群であり、パラメータ空間Θ ⊂ Rpに値を持つ。この確率モデルが を最も良く説明する を求めたい。ゆえに最尤推定をおこなう。
このとき独立同分布条件により、尤度関数 と対数尤度関数 は以下で定義される。
すなわちあるデータ群に対するモデルの尤度関数は、各観測値に対する尤度関数の積(対数尤度の場合は和)となる。
最尤法では対数尤度関数を最大化する が最尤推定値 として定まる。このとき は次の極値条件を満たす。
この方程式を尤度方程式という。左辺の勾配ベクトル:
は、スコア関数、もしくは単にスコアと呼ばれる。多くの場合、最尤推定値の推定は、尤度方程式を解く問題、すなわち、スコアをゼロとするパラメータθ∈ Θを求める問題に帰着する。
例
正規分布
Xi (i=1,..,n)が平均をμ、分散をσ2とする正規分布に従うとする(X ∼ N(μ, σ2))。このとき、対数尤度関数は
であり、尤度方程式は
となる。これらを整理すると最尤推定値として
を得る。
ワイブル分布
Xi (i=1,..,n)が形状パラメータをβ、尺度パラメータをηとするワイブル分布に従うとする。このとき、対数尤度関数は
であり、尤度方程式は
となる。
これらを整理すると最尤推定値ˆη、ˆβが満たすべき関係式
を得る。第二式を満たすˆβを数値的に求めれば、第一式よりˆηも定まる。
ガンマ分布
Xi (i=1,..,n)が形状パラメータをα、尺度パラメータをβとするガンマ分布に従うとする(X ∼ Γ(α, β))。このとき、対数尤度関数は
であり、尤度方程式は
となる。
ここではψ(α)はガンマ関数の対数微分であるディガンマ関数を表す。これらを整理すると最尤推定値ˆβ、ˆαが満たすべき関係式
を得る。第二式を満たすˆαを数値的に求めれば、第一式よりˆβも定まる。
数値解法
尤度方程式が解析的に解けない場合、S(θ*)=0を満たすθ*∈ Θを数値的に求めることが必要となる。
ニュートン=ラフソン法
ニュートン=ラフソン法では、反復計算により、最適解θ*を求める。反復計算のkステップ目で求まったパラメータをθ(k)とする。スコア関数はテイラー展開により、
と一次近似できる。ここでI(θ)は、
で与えられる、対数尤度関数のヘッセ行列の符号を変えた行列である。ニュートン=ラフソン法では、左辺をゼロとおくことで、θ(k 1)を与える更新式
を定める。
ニュートン=ラフソン法は、最適解θ*の近傍で二次収束するため、収束が早い。すなわち、θ*の十分近くの適切な初期値を与えれば、
を満たす正の定数Kが存在する。
一方で、ニュートン=ラフソン法は各ステップで、対数尤度関数のヘッセ行列から定まるI(θ)の逆行列を計算する、もしくは、p次の連立方程式を解くことが必要となる。これらの計算量はO(p3)のオーダーであり、パラメータ数pが増えると、計算負荷が急激に増える。また、初期値の設定によっては、I(θ)は正定値とはならず、最適解θ*に収束しない場合がある。
フィッシャーのスコア法
ニュートン=ラフソン法においては、各ステップで負の対数尤度関数の二階微分であるI(θ)を計算する必要がある。このI(θ)を求める計算は、場合によっては煩雑となる。分布によっては、I(θ)の期待値であるフィッシャー情報行列
が、より簡潔に求まるため、I(θ)をJ(θ)で代用し、反復計算を
とする。この方法をフィッシャーのスコア法と呼ぶ。
フィッシャー情報行列は非負定値であるため、ニュートン=ラフソン法でのI(θ)の正定値性の問題を回避することができる。
脚注
参考文献
- Epps, T. W. (2013). Probability and Statistical Theory for Applied Researchers. World Scientific Pub Co Inc. ISBN 978-9814513159
- Lehmann, E. L. (1983). Theory of Point Estimation. John Wiley & Sons Inc. ISBN 978-0471058496
- Monahan, John F. (2011). Numerical Methods of Statistics. Cambridge Series in Statistical and Probabilistic Mathematics (2nd ed.). Cambridge University Press. ISBN 978-0521139519
関連項目




