特殊無線技士(とくしゅむせんぎし)は、電波法令に規定する海上特殊無線技士、航空特殊無線技士、陸上特殊無線技士を総合した通称である。
概要
1950年(昭和25年)の電波法制定時にアマチュア無線技士とともに無線従事者の一種別として新設された。 当時は、VHF、UHFの利用が開始され、小規模で近距離用の通信機器が実用化され始めた時期であった。また、これらの機器は周波数変調、パルス変調など従来は無かった技術を利用している。 そこで、
- 無線通信士を必要としない無線操作ができること
- 技術知識を活かした技術操作ができる
を想定して資格が設定された ものである。
政省令により種別が規定され、改廃に電波法改正を要せず変遷が激しかった。
国家試験においても、他資格が一次試験と二次試験(後に予備試験と本試験)と二段階であったものが、一段階のみであった。
無線通信士や無線技術士(現・陸上無線技術士)より下位資格であり、アマチュア無線技士の操作範囲も含まれず、国際通信や船舶無線も重要なものは扱えないものとして制定された。 余談であるが、制定当時は日本人による航空機の運行は禁止されており、航空無線は扱えなかった。 それでも当初はレーダーやファクシミリなど当時としては特殊な無線設備は、無線通信士や第二級無線技術士では操作できず、特殊無線技士が必要とされた。 しかし、無線従事者制度が整備されるにつれ操作範囲も階層化され、通信操作は船舶無線における一部の国際通信の操作または国内通信の操作に、技術操作は原則として小規模の無線設備の外部の転換装置で電波の質に影響を及ぼさないものに限定されたものとなった。
1989年(平成元年)11月の電波法改正により、無線従事者の資格は海上、航空、陸上と利用分野別に再編 され、法令上では分野を冠することになった。 翌1990年(平成2年)5月にこの改正法令が施行されたため、単なる「特殊無線技士」では通称にすぎなくなった。 本項目で扱うのは主にこの時点までとする。
時々「特殊無線技師」、「特種無線技士」と誤記されることがある。
種別と操作範囲
資格再編直前のものを掲げる。
歴史
これ以後は、海上特殊無線技士、航空特殊無線技士、陸上特殊無線技士を参照。
種別の変遷
電波法施行規則および無線従事者操作範囲令に規定されていた時期毎に分割して図示して再掲する。
取得者数
資格再編直前の平成元年度末現在のものを掲げる。
取得制度の変遷
- 試験方法及び科目
電気通信術は実地、その他は筆記によることとされていた。 なお、法規に国際法が含まれ、かつ英語(英会話)が科目とされたのは特殊無線技士(国際無線電話)のみであった。 また、無線工学(従前の相当する科目を含む。)の水準は中学校または高等学校卒業程度であったが、特殊無線技士(多重無線設備)(前身の種別を含む。)のみ他の種別より高く工業高等学校電気科または電気通信科卒業程度であり、養成課程については改正前の無線従事者規則第13条第9項(現行の第21条第3項に相当)に規定されていた。
- 電気通信術
電気通信術の能力について、無線従事者操作範囲令制定以前に無線従事者国家試験及び免許規則に規定されていたもの及び資格再編前の直近の改正時(特殊無線技士(国際無線電話)制定時)に無線従事者規則に規定されていたものにより網羅する。
- 国家試験の科目免除
科目合格による免除は、規定されていなかった。 他資格の所持者に対する免除については、種別の変遷に伴い対象が変化した。 無線従事者国家試験及び免許規則または無線従事者規則の主要な制改定の施行時のものを示す。
当初の科目免除は現有資格の国家試験合格月の月初から1年間であった。
これ以後の科目免除は終身有効とされた。
資格再編後は、アマチュア無線技士の特殊無線技士に、および特殊無線技士の他の特殊無線技士に対する科目免除は規定されていない。 この他、琉球政府の旧第三級無線技術士は特殊無線技士(無線電話甲)の無線工学が免除されていたが、資格再編後は第二級海上特殊無線技士の無線工学が免除される こととなった。
- 養成課程の授業時間
無線従事者養成課程における科目毎に標準となる授業時間数について、資格再編直直前のものを示す。
注 地方電波監理局長又は地方電気通信監理局長(沖縄郵政管理事務所長を含む。)が認めた方法による場合は変更できた。
上述のとおり、特殊無線技士(多重無線設備)のみ学力制限があり、業務経歴や資格保有などもなければ、選抜試験の合格を要した。
経過措置
特殊無線技士は、免許証の書換えを必要としない。
- 改正電波法令の施行日以降でも国家試験合格の日又は養成課程修了の日から3ヶ月以内に免許申請したものであれば、特殊無線技士として免許された。
特殊無線技士(多重無線設備)は、1993年(平成5年)4月まで第一級無線技術士の指揮の下、空中線電力500Wを超える多重無線設備の操作ができた。
特殊無線技士(無線電話丙)・(無線電話丁)以外は、従前の操作範囲の操作並びに電波法第39条第2項に反しない限り操作の監督もできる。
- 特殊無線技士(レーダー)は、すべてのレーダーの操作又はその監督ができる。レーダー級海上特殊無線技士は、海上無線航行用のレーダーしか操作又はその監督をできない。
免許証の再交付を受けた場合、資格の名称は現行のものとなるが、それによっても従前の操作範囲の操作を行える。
- 特殊無線技士(国際無線電話)の免許証には免許内容の英文での付記が無い。ポートステートコントロールの際には不便であり、この対策としては再交付の申請をして第一級海上特殊無線技士の免許証を得る。なお特殊無線技士(国際無線電話)は第二級陸上特殊無線技士にもみなされるので、免許証には二つの種別が併記される。
- 操作範囲の改正
- 資格再編時
- 特殊無線技士(国際無線電話)・(無線電話甲)・(無線電話乙)は、海上無線航行用のレーダーも操作範囲に含まれた。
- 特殊無線技士(無線電話丙)は、航空無線航行用のレーダーも操作範囲に含まれた。
- 特殊無線技士(多重無線設備)・(国際無線電話)・(無線電話甲)・(無線電話乙)は、無線標定用(海上・航空無線航行用以外の)レーダーも操作範囲に含まれた。
- 特殊無線技士(国際無線電話)・(無線電話甲)・(無線電話乙)は、人工衛星局により中継する陸上の多重無線設備も操作範囲に含まれた。
- 資格再編後
- 第一級・第二級・第三級海上特殊無線技士の操作範囲は、制定以後に改正された。これにより特殊無線技士(国際無線電話)・(無線電話甲)・(無線電話丁)も操作範囲が改正されたことになる。海上特殊無線技士#変遷を参照。
- 第一級・第二級陸上特殊無線技士の操作範囲は、制定以後に改正された。これにより特殊無線技士(国際無線電話)・(無線電話甲)・(無線電話乙)・(多重無線設備)も操作範囲が改正されたことになる。陸上特殊無線技士#変遷を参照。
- 免許証関係事項証明
第二級・第三級海上特殊無線技士・航空特殊無線技士は、国際電気通信連合憲章に規定する無線通信規則に規定する制限無線電話通信士にみなされるが、これについて免許証に付記や英訳文はない。 従前の(無線電話甲)・(無線電話丁)(無線電話丙)も一時期の(無線電話甲)を除き、免許証に付記や英訳文はない。 免許に関する事項について証明が必要な場合は、邦文または英文の「証明書」の発行を請求できる。
- 無線従事者免許証#免許証関係事項証明を参照
脚注
注釈
出典
関連項目
- 無線従事者 (琉球政府)