『CIRCUS TOWN』(サーカス・タウン)は、1976年12月25日 (1976-12-25)に発売された、山下達郎初のソロ・スタジオ・アルバム。
解説
山下達郎はもともとシュガー・ベイブのメンバーとしてプロ活動を始め、3年弱の活動を経て、1976年 (1976)からソロ・シンガーとして活動をすることになった。是が非でもソロになりたかったわけではなく、バンドが解散して仕方なくというお決まりのパターンだった。バンド解散による精神的ダメージと、シュガー・ベイブで目指した1960年 (1960)代テイストやレコード・マニア的趣味性が当時の日本の音楽状況にまったく受け入れられなかったことへの挫折感とで、自分がこの先どうすればいいのか皆目わからなくなっていた。ソロでやって行くにしても、どこか客観的な立場に一度身を置いて自身の音楽的力量を判断してみないことには前に進めない。これがソロ・アルバムを海外で録音しようと思い立った理由だったという。
シュガー・ベイブは実質的に山下のワンマン・バンドであり、音作りに関してはほとんど独裁者だったが、所詮は22才の若造。プロデュースだアレンジだといっても、小さな世界での観念的な「ごっこ」言葉でしかなかった。山下自身もそうしたことに限界を感じていたことから、この際ファースト・ソロ・アルバムでは曲作りと歌に専念して、プロデュースとアレンジは第三者に託してみようと考えていたという。自分が聴いて育ってきたアメリカン・ヒット・パレードの真ん中で自分の音を鳴らしたら、一体どんなものが出来上がるのか。プロデューサー、アレンジャー、ミュージシャンからスタジオやエンジニアまですべて自分で指定して、その上に自分の曲と歌を乗せてみたら自分の予測値と現実はどのくらいの誤差が生じるか。そのため、録音場所は絶対にニューヨークでなければならないし、プロデューサー・アレンジャーは1960年 (1960)代と1970年 (1970)代を等しく理解している人でなければならない。
こうしたプランに基づいて何人かのアレンジャーやミュージシャンを想定し、当時ソロ・シンガーとして契約したいと声をかけてきたレコード会社数社に諮ったところ、当時は海外レコーディングはまだまだ特別な事柄で、ミュージシャンやスタジオの交渉など現地でのコーディネートも難しく、なにより山下のオーダーではスタジオやミュージシャンのランクが高過ぎて莫大な予算がかかり、当時の山下のセールス実績では採算が取れないと判断され、どのレコード会社も難色を示したという。そんな中で1人だけ、RVCで制作ディレクターとしてのキャリアをスタートさせたばかりだった小杉理宇造が手を挙げた。
RVCで日本のロックをやりたいと考えていた小杉は、マネジメント会社「アワ・ハウス」代表の牧村憲一に紹介されて行った、荻窪ロフトでのシュガー・ベイブ解散コンサートを見て、山下と契約したいと思ったという。その頃すでにCBSソニーとの契約が決まっていたが、まだ正式にはしていないらしい。ならばとにかく本人に会いたいということでRVCに来た山下に小杉は「君をやりたいんだけど」と申し出た。対して山下は「ニューヨーク・レコーディングをやりたいから、そのお膳立てをしてくれたらやってもいい」という事になり、正式なオファー・リストを山下からもらった小杉は、ニューヨークでの留学生活の経験を生かして単身渡米し、山下が指名したプロデューサー数人と直接交渉の結果、第一候補だったチャーリー・カレロのOKを得て話を決めてきた。ただし、予算の関係でアルバム1枚全部をニューヨークでというのは不可能なので、ついては自分はロサンゼルスにならミュージシャンの友人がいて、彼らを紹介するので、半分をロスでお願いできないかという話。その友人というのが、ジョン・サイターという、スパンキー・アンド・アワ・ギャングやタートルズのメンバーだったこともある、偶然にも山下の大好きなミュージシャンだったというのも縁としかいいようがなく、かくしてRVCと契約する運びとなり、ソロ・デビュー・アルバムの準備が整った。
アートワーク、パッケージ
アルバムの帯には以下のキャッチコピーが記載されている。
パッケージのアート・ディレクションとデザインは佐藤憲吉。アルバム・カバーは小暮徹撮影による写真をテレビのブラウン管に映し、画像を変調させたものを再度撮影するという、手の込んだアナログ作業によるもの。山下の写真は表面は右向き、裏面は左向きとなっている。
収録曲
NEW YORK SIDE
レコーディングは最初、ニューヨークで2週間、その後ロサンゼルスに移動して1週間というスケジュールで行われた。初めての海外、それまでバンドの中でチマチマやっていたのがいきなりの他流試合。しかも相手は超一級のミュージシャン集団。ニューヨークでのセッションが始まると、緊張のあまりろくに声も出なかった。チャーリー・カレロはお世辞にもフレンドリーとは言えず、ミュージシャンもクセのある連中ばかり。わずかにドラムのアラン・シュワルツバーグとエンジニアのジョー・ヨルゲンセンが励ましてくれたおかげで何とか救われたようなものだったという。当時23歳だった山下にとって、ニューヨークのスタジオでの人間関係は、金の話や人種差別といった不快な部分も含めてとてつもないカルチャーショックだったが、それでもスピーカーから出て来た音が自分が考えたイメージとほぼ同じだったことに安堵したという。それは何より自分の美意識が基本的には間違っていなかったことの証明であり、その後の音楽活動への大きな励みになったという。ティー・ブレイクのとき、「好きなミュージシャンは誰か」とカレロに質問され、ここぞとばかりハル・ブレインやバディ・サルツマンの名を挙げたところ、たった一言「彼らは確かに1967年には一流だった」と言われたという。この言葉が、それまでのポップス・マニアだった山下の音楽的方向性に決定的な転換を与える結果となった。この時代のカレロと仕事をしたことで後に山下は、ロックン・ロールというものの時代を貫く普遍性が体感できたとし、「あの体験がなければ、新しいものには見向きもしないで、恐らく自分が十代に聴いて感動した音楽を追いかけて、オールディーズ少年をやっていただろうな。重要なのはそういうことじゃなくて、ドゥーワップ好きでもラップはできる、こんな感じかなって思った」と話している。
- CIRCUS TOWN – (4:11)
- WINDY LADY – (5:42)
- MINNIE – (4:20)
- 永遠に – (4:55)
LOS ANGELES SIDE
ニューヨークでのセッションを終え、ロサンゼルスに移ってみると、ミュージシャンはフレンドリーだが機材は古臭いといった調子で、すべてが違っていた。ロスでのセッションが始まった途端、ジョン・サイターが連れてきたメンバーが山下の思った感じの音を全然出してくれないという事態が起こった。特にベーシストとギタリストが全くダメで、一日目を終えてすっかり落ち込んでしまった山下は、このまま続けても仕方ないからやめて帰ろうかとさえ考えた。しかし、ホテルに帰る車の中でサイターが「コーラスはケニー・アルトマンとジェリー・イエスターに頼む予定だ」と言い出したので、それを聞いた山下が「ちょっと待って。アルトマンがLAにいるなら彼にベースを弾いてもらってよ」と提案、かくしてベースは彼に交代、ギターはキーボーディストのジョン・ホッブスがバンド仲間のビリー・ウォーカーを連れてきたことで、綱渡りながらも残りの2日間で何とかリズム録りを終えることが出来たという。
- LAST STEP – (3:29)
- CITY WAY – (3:38)
- 迷い込んだ街と – (4:40)
- 夏の陽 – (4:24)
クレジット
NEW YORK SIDE
LOS ANGELS SIDE
スタッフ
BVCR-17013
解説
2002年、“山下達郎 RCA/AIRイヤーズ 1976-1982”として、『CIRCUS TOWN』から『FOR YOU』までの7タイトルが山下監修によるデジタル・リマスタリング、および、自身によるライナーノーツと曲解説。CDには各タイトル毎に未発表音源を含むボーナス・トラック収録にて再度リイシューされた。本作には未発表音源のカラオケ2曲をボーナス・トラックとして収録。また、本作を含むRCA/AIRイヤーズ対象商品7タイトル購入者に応募者全員への特典として、リマスター盤『COME ALONG』がプレゼントされた。
収録曲
- CIRCUS TOWN(サーカス・タウン) – (4:11)
- WINDY LADY(ウィンディ・レイディ) – (5:44)
- MINNIE(ミニー) – (4:21)
- 永遠に – (4:59)
- LAST STEP(ラスト・ステップ) – (3:28)
- CITY WAY(シティ・ウェイ) – (3:39)
- 迷い込んだ街と – (4:40)
- 夏の陽 – (4:27)
- CIRCUS TOWN [カラオケ -Karaoke-] (未発表 -Previously Unreleased-) – (4:02)
- WINDY LADY [カラオケ -Karaoke-] (未発表 -Previously Unreleased-) – (5:42)
- ニューヨークでのミックス・ダウンの際、「“TVトラック”は必要か?」と聞かれ、アメリカではカラオケのことを「TVトラック」と呼ぶのだと、そこで初めて知ったという。当時の日本ではカラオケは歌手がテレビの番組出演で使う以外に利用価値がなく、バンド出身でテレビとも無縁な山下にとって、カラオケなど全く必要ないように思えたが、小杉の「せっかくだから」というひとことから、2曲のカラオケが作られた。後に、山下はライナーノーツにて「以来20年余の長い時間を私の自宅で眠り続けていたこのオリジナル・カラオケが、よもや日の目を見るなどとは思ってもいませんでした」と書いている。
クレジット
スタッフ
TATSURO YAMASHITA RCA/AIR YEARS Vinyl Collection
解説
2023年1月6日 (2023-01-06)、山下達郎が1976年 (1976)から1982年 (1982)にRCA/AIR YEARSから発売したアナログ盤とカセット、全8アイテムに最新リマスターを施した“TATSURO YAMASHITA RCA/AIR YEARS Vinyl Collection”が5月から5カ月連続リリースが決定したことが発表された。
アナログ盤とカセットの同時発売で、アナログ盤はすべて180g重量盤。完全生産限定盤。5月3日に6thアルバム『FOR YOU』、6月7日に5thアルバム『RIDE ON TIME』、7月5日に4thアルバム『MOONGLOW』と3rdアルバム『GO AHEAD!』、8月2日に2ndアルバム『SPACY』とソロデビューアルバム『CIRCUS TOWN』、9月6日にライブ・アルバム『IT'S A POPPIN' TIME』とベスト・アルバム『GREATEST HITS! OF TATSURO YAMASHITA』が発売された。
オリジナル・アナログ盤に封入されていた歌詞カードを同封。歌詞カードはオリジナルをもとにリデザインされたものとなっているが、表面に曲目が追加されたほか、歌詞が掲載された裏面は、オリジナルでは上半分に“NEW YORK SIDE”、下半分に“LOS ANGELS SIDE”と分かれていたが、今回は続けて掲載されている。その他、2002年 (2002)に“TATSURO YAMASHITA THE RCA/AIR YEARS 1976-1982”の一枚にてリイシューされたリマスター盤『CIRCUS TOWN』に収載された書き下ろしの解説と曲目解説を補筆改定にて再掲のほか、“曲目解説 付記 in 2023”を新たに加えたライナーノーツを新規封入。リマスタリング・エンジニアはワーナーミュージック・マスタリングの菊地功、カッティングは同じくワーナーミュージック・マスタリングの北村勝敏がそれぞれ担当。
5月24日、最新リマスター&ヴァイナル・カッティング8タイトルが、多くの予約を得たことでCDショップ/オンラインショップでは売切れが多数発生。また、発売元であるソニー・ミュージックの設定販売価格よりも大きく逸脱し、高価格の転売商品が多数出回っている状態は本意ではないことから当面の間、商品の追加プレスを行うことが発表された。
プロモーション、マーケティング
5月3日から5カ月連続でリリースされる山下達郎のリマスターシリーズ“TATSURO YAMASHITA RCA/AIR YEARS Vinyl Collection”のティザー映像がYouTubeで公開された。山下達郎自らがノンストップミックスで編集したマスターエディット使用した本シリーズのティザーでは8ビットのドライブゲーム風の映像に乗せて、収録曲がダイジェストで楽しめる内容となっており、本作『CIRCUS TOWN』からは「CIRCUS TOWN」と「WINDY LADY」が選ばれている。
チャート成績
山下達郎の5カ月連続リイシュー“TATSURO YAMASHITA RCA/AIR YEARS Vinyl Collection”、その第4弾として8月に発売された『SPACY』(1977年 (1977)作品)と、『CIRCUS TOWN』(1976年 (1976)作品)の2作品が、8月14日付「オリコン週間アルバムランキング」に揃ってランクイン。『SPACY』が6位、『CIRCUS TOWN』が7位となった。
今回、両作が「オリコン週間アルバムランキング」TOP10に初ランクインしたことで、「同一作品による初ランクインからTOP10入りまでのインターバル記録」は、『SPACY』が46年2カ月(初ランクイン:77年6月13日付)、『CIRCUS TOWN』(同:76年11月8日付)が46年9カ月となり、23年7月17日付同ランキングにおいて『GO AHEAD!』が記録した「邦楽アーティストとしては過去最長」(43年10カ月)を自己更新した。
収録曲
Side 1 [ NEW YORK SIDE]
- CIRCUS TOWN
- WINDY LADY
- MINNIE
- 永遠に
Side 2 [ LOS ANGELES SIDE]
- LAST STEP
- CITY WAY
- 迷い込んだ街と
- 夏の陽
クレジット
スタッフ
レコーディング・データ
リリース履歴
カバー
WINDY LADY
※詳細は『山下達郎のカバー一覧#WINDY LADY』を参照
脚注
注釈
出典
書籍
その他
外部リンク
- SonyMusic
-
- CIRCUS TOWN – ディスコグラフィ
- CIRCUS TOWN 【RCA/AIR YEARS 2023アナログ盤】 – ディスコグラフィ
- CIRCUS TOWN 【RCA/AIR YEARS 2023カセット】 – ディスコグラフィ
- 山下達郎 OFFICIAL SITE
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- CIRCUS TOWN – Discography ALBUM
- その他
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- Circus Town - Discogs (発売一覧)