広東語仮名(かんとんごかな)とは、日本統治時代の台湾で用いられた、台湾客家語の発音を表記するための振り仮名。表記は四県腔および海陸腔の発音的特徴を兼ね備えたものとなっている。広東語仮名は主に辞典や教材における客家語の発音表記として、日本語の振り仮名や中国語の注音符号のように用いられたものの、あまり広く用いられる事はなかった。
なお、現代の日本語では一般に「広東語」といえば粤語を指すが、日本統治時代の台湾では客家は「広東人」と称されており、ここでの「広東語」は台湾客家語の事を指す。またこのように呼称されているからといって台湾客家語としての「広東語」と粤語の一派としての「広東語」を同一視していたという訳ではない。
方案
五十音図
五十音図に入れられている仮名は広東語仮名の基礎であるが、ワ行の「ヰ」は使用されない。
特殊な音韻の表記法
符号字
符号字は本体系において新造された仮名であり、前者6個の符号字は[t]、[ts]および[v]を声母に持つ音節を示すためのものである。
ウについてはス、ツ、ツ̣の3小の仮名の後にのみ現れ、台湾客家語における中央母音[ɨ]を示すために用いられる。広東語仮名のウはいかなる韻尾とも組み合わせることができず、この特徴は海陸腔のものと一致している。
後部歯茎音および硬口蓋音
広東語仮名では海陸腔に特徴的な子音である後部歯茎音の表現が可能である。
唇歯摩擦音
唇歯摩擦音の[f]および[v]で始まる音節は、それぞれ片仮名フおよびヴに、ア行の小書き仮名を添える事で表現される。
円唇化音
[k]と[kʰ]の2種類の子音に関しては円唇化が起こる事がある。この場合、ワ行の小書き仮名を添える事で表現する。
有気音
有気音は仮名の下部に小点を添える事で表現される。
軟口蓋鼻音および音節主音的鼻音
軟口蓋鼻音[ŋ]はガ行で表現され、音節主音的鼻音についても特別な表記を用いず通常の仮名と同様に表記する。
韻尾
広東語仮名では四県腔および海陸腔にある6種類の韻尾をそれぞれ6種類の仮名で表現する。鼻音は通常の仮名で、入声は小書き仮名で表記する。
声調符号
声調符号は仮名の右側に書き添える。
広東語仮名では6種類の声調を表現可能であるが、このうち去声は四県腔に特徴的なものである。
広東語仮名の声調符号は12種類存在するが、これは台湾語仮名のものよりも少なく、なおかつ対応する調類も異なるものである。
四県腔と海陸腔には鼻母音が存在しないが、[m] [n] [ŋ]の3種類の鼻音で始まる音節において台湾語仮名で鼻音に用いる声調符号を使用する必要がある。
音節表
- 2つの音節主音的鼻音ム[m̩]およびン[ŋ̍]については本表に入っていない。
- [i̯en]と[i̯an]、[i̯et̚]と[i̯at̚]は相補分布をなす。
- 以下の表は現れる音節が少なくかつ上記の表に含まれていない韻母を記したものである(成節子音的鼻音を除く)。